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闘魂 サバイバル生活者のブログ

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皆さん騙されないように!

おやじが学んだ日本の経済


伊藤修「日本の経済―歴史・現状・論点」(中公新書)が面白い。

まず印象に残っているのは、95年に日経連(現在は経団連)が出した雇用戦略。以前から知っていたが、労働力を基幹社員、専門職社員(昇給・退職金なし)、雇用柔軟型社員(時給制)に分けて、コストを下げるというもの。

非正規雇用問題の根はここにある。95年である。

国鉄・NTT・郵政と民営化が進むのはいいが、民営化が進むにつれ労組の力も落ちた。95年以降10年間、労働者の地位後退が続き、いまの状況に至ってしまった。

著者は怒る。ジニ係数の高低が問題なのではなくて、給料が少なすぎて生活できないひとが実際に存在するというのが問題だと。敷衍すると、同じ日本に生まれ育って、こんな理不尽なシステムがあることに目をつぶることはできないというのだ。

財界というのは勝手なもんで、団塊世代が退職して、人手不足になるのは明らかなのに、このコスト構造だけは維持したがる。人肉の味を覚えた人食い虎のようである。

つぎに印象に残ったのは、財政にまつわる常識がいかに誤りに満ちているかということ。この点は、世の常識にとらわれてしまった自分を省みなければならない。

まずは、公務員に関して。公務員は欧米と比較して、費用も少ないし、数も少ない。

また、政府支出は、少なくなったとはいえ、公共投資があいかわらず大きい。他国が多数の人手を介するサービス中心なのに対して、日本は箱物中心、つまり、政・官・財の癒着体質が抜け切れていないという。欧米の水準と照らして異常だということだ。

さらに、国民負担は、社会保障とセットで見れば、他の欧米諸国より負担率が小さいという事実も斬新だった。

特に、米国は、医療費は民間保険でカバーし、国が税控除でそれを支えるが、企業が医療費を福利費として負担している事実。これはだれも言わないので知らなかった。こいつを考慮すれば米国の国民負担率は日本のそれより高くなるとのこと。

財界は法人税10%減税を主張するが、社会保障費も視野に入れて議論しなければならないので、みなさんだまされないように。米国の企業と比べて、日本の企業は負担が重いというのは間違い。税の負担だけなら確かにその通りだが、社会保障の負担費を考慮すれば結論が違ってくる。

あと話は飛ぶが、米国にさえある納税者番号制を導入しないのは絶対おかしい。納税者番号で資産とつきあわせることができれば、トーゴーサンピンも是正できるだろう。

もうひとついえば、だれも相続税を払ってない現状もどう考えたっておかしい。

それから外形標準課税も是非考慮しなければ。なぜなら、利益が出てない企業だって、公共インフラは利用しているんだから。

消費税だって変。伝票でなく、帳簿ベースでもOKとしているため、毎年数兆円が不足しているという。

なるほど知れば知るほどおかしいことばかりである。自民党の支持基盤との絡みで是正できないのかも知れない。

最後に、社会保障に関しては、能力に応じて負担し、必要に応じて給付するという原則が気に入った。まさしくそのとおりだと思う。

日本は、ドイツのビスマルク型の社会保障で、保険料を払って、それに見合う給付をしている。しかし、著者は国民年金は三割以上が不払いである現状と保険料の逆進性の程度が消費税の比でない事実を問題視する。

結果、イギリスのベバリッジ型、つまり、保険料徴収をやめ、税負担方式で、全国民にミニマムの保障を提供し、あとは各自にまかせるとすると提言する。

現行の国民年金だと月6.5万円しかもらえないから、富裕層には意味ないし、貧困層には逆進性が大きすぎて、保険料を払えず、老後は生活保護と相成ってしまう。だから、結局、早晩制度は事実上破綻するというのが根拠だ。う~ん、なんかベルリンの壁崩壊を思い出した。

ところで、日本の経済、歴史の部分では、バブル以降の記述が圧巻だった。

バブルは、1920年代に経験していて、そのときもバブルの後遺症で、大きな不況に見舞われたということだ。こんな基本的な事実さえ押さえていない身としては、政府・日銀のバブルへの対応が「TOO LATE, TOO HARD」だった、つまり、失政だったというのはショックだった。

そして、それに続く、「失われた15年」が前半と後半に分け得て、前半はともかく、1997年以降の後半がこれまた失政が原因となったというのも看過しがたい指摘だった。

おかげで、企業はなりふりかまわずリストラに走るわ、現場をつぶさに見てきた身としては、気持ちが入って思わず集中してしまった。

歴史の部分を読んだ時点で、この本はもう一度読む値打ちがあるような気がした。自分が会社員として潜り抜けてきた時代がどのような時代だったのかを振り返るのは意味があると思えたからだ。

そして最後は「貯蓄率」!

かつて15%はあった貯蓄率がいまや2%台に落ちていて、もはや貯蓄率が高い国だとはいえなくなっている現実。うすうす感じてはいたが、2%台という数字を知ってめまいがした。

貯蓄率が減るとどうなるんだろうか、よくはわからないが、長期的には、円安、インフレ、高金利だというひともいるようだ。高金利、である!!


2007年6月6日 根賀源三



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